Money
お金は嫌いだった。
服も靴も最新の携帯もいらなかった。
お金なんか無くたって、とそのもの本質に価値を見出していたものの、最後にはお金という壁がいつも目の前に立ちはだかっていた。
お金と比べられないものを天秤にかけては、お金無しではどうにもならない無力さを感じていた。
企業モラルのない安かろう悪かろうな商品を買う事への後ろめたさも、それでも安いものに頼らざるを得ない経済事情も悔しかった。
こんな紙切れ。
そう思いながらも通帳の残高といつも相談する自分が嫌いだった。
お金に関してはいつも自己矛盾がつきまとっていたから、いつのまにかコンプレックスになっていたんだと思う。
そんなわけでビジネスには興味がなかったけれど、思いもかけない話が舞い込んできた。
とある民間企業でのビジネスの話。
もしかしたら世界のお金の方向性を少しだけ変えることができるかも、なんて妄想がふくらむ。
お金がポジティブなものになる可能性もある。
日本に帰ってどんな暮らしをしようか考えていた矢先だったのに、思いがけずワクワクしてしまっている自分に困惑する。
さぁどうしよう。
やっぱり先が読めない。